2025年12月3日に開催された京都市会文教はぐくみ委員会におきまして「市会議第27号京都市世界遺産保護条例の制定について」以下の内容での議案説明を行い、その後、自民党市議団・森田市議、維新京都国民市議団・もりもと市議、公明党市議団・増成市議、改新京都市議団・片桐市議、無所属・井﨑市議より、質疑があり、日本共産党からは答弁者として玉本市議、山根市議、平井市議、くらた市議、そして私がたちました。
■文教はぐくみ委員会における議案説明(全文) とがし豊
市会議第27号として「京都市世界遺産保護条例の制定について」をご提出させていただいております。この条例は、世界遺産「古都京都の文化財」を確実に後世へと引き継ぐことを目指すものです。御審査いただきますよう、よろしくお願い致します。
それでは、議案説明資料に基づきまして、ご説明を致します。
議案説明資料1ページをご覧ください。
◆条例制定の趣旨についてです。
世界遺産条約(世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約)は1972年に、ユネスコ総会で採択され1975年に発効し、日本は、1992年に締結いたしております。「古都京都の文化財」(京都市、宇治市、大津市)」は、1994年に世界遺産として登録されました。
世界遺産保護のための国際的なルールである「世界遺産条約履行のための作業指針」では、加盟国は遺産を守るために、国および地方レベルにおける立法措置、規制措置を求められています。2012年に京都市で開催された世界遺産条約採択40周年記念最終会合で採択された「京都ビジョン」では、「コミュニティの関心と要望は、遺産の保存と管理に向けた努力の中心に据えられなくてはならない」と明記し、同作業指針においても、地域コミュニティの参画を中核とする世界遺産の「効果的な管理体制」を示しています。今回の条例制定はその具体化となります。
3ページをお開ください。
参照資料(1)世界遺産条約履行のための作業指針よりの一部抜粋です。
地方における立法措置については、作業指針の98番目のパラグラフに記載されています。効果的な管理体制については、111番目のパラグラフで、多様な世界遺産がある中で共通する要素として、a~hの8項目にわたって明らかにされております。
そうした中、我が国においても、従来の文化財保護法や、景観法などの法体系による保護に加え、各自治体においても多彩な世界遺産保護のための条例が制定されています。
議案説明資料4ページをご覧ください。
参照(3)なんらかの世界遺産保護のための条例をもつ国内13の世界遺産の一覧です。それらの遺産においては、計33の条例が制定されています。
とりわけ、本条例案同様の世界遺産保護のための基本となる条例を制定している世界遺産は4つございます。
3行目、文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」
4行目、自然遺産「知床」
7行目、文化遺産「富士山―信仰の対象と芸術の源泉―」
9行目、「神宿る島」宗像・沖ノ島)と関連遺産群」
以上、4つの世界遺産で7自治体におきまして世界遺産保護のための基本条例が制定されています。
政府が来年登録を目指している「飛鳥・藤原の宮都」については、今年8月に基本条例である橿原市世界遺産条例が制定されております。そのほか、詳しい条例制定状況については、7ページから9ページの別紙1をご参照ください。
各自治体においては、条例によって、世界遺産条約の実効性を高め、世界遺産保護の取り組みの充実を図られています。
1ページにお戻りください。
4段落目をご覧ください。
本市においては、世界遺産登録時に示した緩衝地帯と歴史的環境調整区域の線引きに示された面的な利用・開発規制などの措置に加え、2007年の新景観政策の策定、2018年の景観デザインレビュー制度の創設などによって世界遺産を保護してきました。しかしながら、構成資産、緩衝地帯、周辺環境の保全については、かならずしも、顕著な普遍的価値を守る上で、十分とはいえず、しばしば紛争が生じています。
そうした中、現行法で「合法」な開発であっても、場合によっては裁判闘争も含め地域コミュニティが粘り強く説得する中で事業者が計画を見直し、断念するケースもあり、その結果、当局自身が「顕著な普遍的価値への負の影響は軽微なものにとどまった」と評価しています。これは、現在の世界遺産の保存および管理の法体系だけでは、OUV(顕著な普遍的価値)が守れないことを示しています。そうした下で、現在進行している大規模な都市計画の見直しを認めていけば、古都京都の文化財の顕著な普遍的価値を大きく損なう恐れがあります。
本条例を制定することによって、世界遺産条約の精神に基づき、構成資産所有者や京都市はもちろんのこと、市民、専門家、事業者および来訪者を含む全ての人々が協力し、「古都京都の文化財」の保護と継承に主体的に参画する制度的な枠組みをつくってまいります。
◆次に、条例の概要についてご説明します。
議案説明資料2ページをお開きください。
まず、目的と基本理念についてです。
京都市として、国内外・地域の内外に対し、より強い世界遺産保護の意思表示を行うとともに、人の心の中に平和のとりでを築く世界遺産条約の理念を広く市民に知らせるため、前文を設けております。
第1条では、目的を定め、千年以上にわたる日本文化の中心地として顕著な普遍的価値を有する「古都京都の文化財」を後世に引き継ぐことを掲げております。
第3条には、基本理念として、構成資産の適切な保存管理やそれらを包みこむ周辺環境に関し、良好な景観形成や自然環境の保全など掲げ、構成資産所有者である宗教法人や国、関係地方公共団体、関係団体などとの緊密な連携のもと、古都京都の文化財の保全に関する施策を行うことを掲げています。
つぎに、各主体の責務と役割、保護すべき世界遺産の範囲についてです。
京都市の責務として、第4条に、施策の総合的な策定と実施、推進体制の整備、そして第7条に財政措置をとることを明記し、条例の実効性を確保しております。
第5条では、市民および来訪者、第6条では事業者等の役割として、顕著な普遍的価値への理解を深め、市の施策に協力するよう努力いただくことを明確にし、京都にかかわるすべての人々の協力を促進します。
構成資産およびその緩衝地帯にとどまらず、それらを広範囲に包み込む歴史的環境調整区域を明記しています。
11ページをご覧下さい。別紙2「世界遺産「古都京都の文化財」の推薦書にっか上げられる歴史的環境調整区域について」です。
これは文化市民局より、委員会要求資料として、ご提出いただいたものです。
世界遺産登録に当たって、示された歴史的環境調整区域の領域を示した図です。歴史的風致景観と都市開発などの調和を図る区域と説明されています。
12ページ、13ページは、それらの線引きをより分かりやすく説明された図です。
2ページにお戻りください。
つぎに、京都市が取り組む具体的な施策についてです。
第8条から第14条につきましては、古都京都の文化財の保全に関する各施策の基本となる事項を定めることで、現在行われている取り組みを条例によって裏付け、さらなる取り組みの充実をはかる上での法的な根拠となります。
良好な景観の形成等に関しては、「緩衝地帯のみならず都市全体の景観を保全し、有形無形の文化遺産を幅広く保護することで、世界遺産「古都京都の文化財」の価値を高め、それがまた都市全体の価値を高める」とした包括的保存管理計画を条例において裏付け、その立場からの充実を求めるものです。
構成資産の適切な保存等をめぐってはすでに文化財保護法のもとで遺産所有者との緊密な連携が行われていますが、世界遺産の顕著な普遍的価値を守るという見地からも、一層の制度拡充への努力が求められます。
来訪者の集中による影響の防止に関しては、オーバーツーリズム対策を進める上での一つの根拠となる条項となります。
古都京都の文化財の保全に関する学習機会の提供とともにやさしい日本語での発信を行うことで、難しい表現をまだ学んでいない子どもも、日本語話者以外の方も含め、世界の宝としての世界遺産の価値を共有し、その保存への理解・協力の輪を広げます。市民等の自発的な活動への支援についても、その充実を図るために、明記しております。
巡視の実施及び調査研究を含め体制の充実は、世界遺産の保全についてのあらゆる施策の根幹をなすものと考えます。
次に、議会の関与、審議会、市民参加の仕組みです。
条例の実効性を確保し、世界遺産保護の取り組みを充実させていくため、以下の重要な取り組みを制度化します。
議案説明資料、5ページをご覧ください。
(5)本条例で新たに設置する世界遺産保護審議会などの相関図です。青の矢印が現行制度や実態的な様々な手続きの流れを示しており、赤い矢印が新たに定めるものです。
図の中ほどにあります、京都市、これは、条例においては市長をさしますが、構成資産や緩衝地帯・歴史的環境調整区域の保全状況について、市会および新たに設置する審議会に定期的に報告し、その検証を受けることで世界遺産の現状と課題を広く市民が共有できるようにします。
左端は、世界遺産をとりまくコミュニティであり、条例本文では「市民等」となっておりますが「古都京都の文化財」の構成資産や緩衝地帯・歴史的環境調整区域の保存、管理等がついて、市長に申し立てできるようにするものです。市長は申し立てに基づき必要な措置を講じますが、それらに不服があるとき、市民等は世界遺産保護審議会に申し立て、世界遺産保護の観点から検証できる仕組みを設けます。審議会は、必要に応じて、市民等や有識者などから意見を聴取する公聴会を開催できるようにします。市民等の追加登録の要望についても検証するとしております。世界遺産保護審議会は、場合によっては市長や国に対し建議を行います。
これは、行政の対応が不十分な場合に、市民の声を反映させ、世界遺産保護行政の充実を図る重要な仕組みとなります。
また、これらの機能は、先ほど議案説明資料3ページでご紹介している作業指針111(a)に記載があるとおりに、「地域コミュニティや先住民族を含むすべての関係者が、資産およびその普遍的、国家的、地域的価値、さらには社会生態学的文脈についての理解を十二分に共有」する状況にしていく上で、極めて有効に機能すると考えます。
議案説明資料2ページにお戻りください。
◆最後に施行期日について、ご説明します。
世界遺産保護審議会などの仕組みを整えるためには、少なくとも1年程度の準備期間が必要であることから、第15条から第18条までの規定については、令和9年1月1日からの施行とし、それ以外の条項については公布日からの施行といたします。
結びに、本条例は、市民、専門家、行政の知恵と力を結集し、京都の歴史と個性を守り抜くための新たな一歩です。世界遺産条約履行のための作業指針が掲げる「効果的な管理体制」を早急に構築し、「古都京都の文化財」の顕著な普遍的価値を揺るぎないものとするため、本条例の制定について、ご審査のほど、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。
(更新日:2025年12月04日)


