式年遷宮の費用調達のために、世界遺産・下鴨神社にマンションが建設されると報道されて以来、いろいろな議論が巻き起こっています。そうした中、京都市美観風致審議会(景観専門小委員会)で当該マンション計画「下鴨神社御蔭通南側計画」の事前協議が今日から始まりました。この事前協議がととのったのち、正式に市長から審議会(手続き的には「小委員会」の議をもって審議会の決定となる)に諮問され答申が出されると、この答申に基づいて市長は手続きを進めることになる。そのため非常に重要な議論の場となる。
【議論白熱ー文化遺産かつ自然遺産である「下鴨神社と糺の森」をどう継承】
「景観は作ったら終わりではなくて、育てるという視点が必要」「計画終了後の樹木の所有権や敷地内の管理をどうするのか」「イコモスが一定の理解をしたというが、どういう理解をしたということか。世界遺産であるのだからイコモス(世界遺産諮問機関のこと)がどうだったのか踏まえて議論しないといけない」--委員から次々だされる疑問に、京都市からは「詳細には把握していない」として具体的な回答を示すことができず、結局、次回の委員会に資料で提出されることとなりました。
特に注目された論点は、この計画によって、賀茂川・高野川の三角州の先端から神社全体に至る「糺の森」全体の「連続性の途中に大きな穴をつくることになるのではないか」という指摘。「B3棟によって森の連続性が途切れる可能性がある」とマンション建設の計画の根幹について問題点を指摘する意見も出された。関連して、「風致三種の網(規制)のかけ方から見ても、河合神社という名称が三角州を象徴するということからも、ばっさゾーンは広くとらえるべき」「第一期、第二期は復元が中心なのに、今回の第三期は別のものというのはおかしい」という指摘もありました。
また、「当該地にある駐車場や倉庫などはどこに行くのか」「神社内の別の場所につくるとそれはそれで問題であり、下鴨神社全体としてどうなるのか示してもらいたい」との指摘も続いた。これをうけ、別の委員からは、「コアゾーンに倉庫をつくることが新聞報道されたりもしているし、駐車場を別につくるとなったらまた環境負荷も出てくる」との指摘が続きました。京都市からは「北西部にすでに大きな駐車場がある。当該地の駐車場の回転率は把握していないが観光客が使っていると思われる」との答えがありましたが、この点については詳細は次回に回答されることとなりました。
【歴史的スケールでの徹底検証、市民的議論不可欠】
傍聴をして、改めて、この計画についてはもっと周辺住民はもとより、世界遺産である以上は世界に対してしっかりと情報を明らかにし、下鴨神社形成過程から今日にそして将来にわたる歴史的なスケールでの検証とともに、英知を結集しての検討が不可欠であることを痛感しました。丁寧な合意形成なしにすすめることは、下鴨神社の価値に計り知れないダメージを与えかねません。世界の財産となった下鴨神社をしっかりと後世へ継承するため、この祭に、徹底した議論を起こしていかねばならないと意を強くしました。(とがし豊)
(更新日:2015年04月23日)